2019年09月30日

『コールミー・バイ・ノーネーム』

斜線堂有紀 先生が贈る新作は「名前当て」ミステリー。ゴミ捨て場で拾った美しい女性に
惹かれていく女学生が、友達になるため彼女の「本当の名」と過去を探る経緯を描きます。
(Illustration/くわばらたもつ 先生)

https://www.seikaisha.co.jp/information/2019/08/28-post-clmn.html


奔放な性生活と無法な横恋慕。一宿一飯の恩義を体で返そうとする“古橋琴葉”に関する
ことは数少ない。そんな彼女から提示された「付き合っている間に自分の本名を当てたら
友達になってあげる」という話に乗った“愛”は世にも奇妙な同居生活を始めるが──。

改名する、その意味を交際する過程で探る“愛”自身にも一つの問題が存在する。それは
「なぜ“琴葉”を助けたのか」という点。善意の先に芽生えた感情を証明しようともがく
“愛”の気持ちを受け止め、それでも本名の「呪い」に苦しむ“琴葉”が示す拒絶は悲痛。

未希が“愛”のことを「光人間」と称したその意味も、読み終える今ならわかる気がする。
共に「何か」を証明する難しさ、やるせなさを痛感してきたからこそ繋がる2人の心と体。
名前当てが終わるその先に、“琴葉”の感情を証明する“愛”が居続けてほしいものです。

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2019年09月27日

『ここは書物平坂 黄泉の花咲く本屋さん』

新井輝 先生が贈る新作はあやかしもの。死の淵に立つ人へ未練ある本を提供する地獄の鬼
が店長を務める書店、そこを訪れた本好きな女性が辿る数奇な運命と縁の変遷を描きます。
(イラスト:紅木春 先生)

https://lbunko.kadokawa.co.jp/product/321809000748.html


黄泉比良坂。死者の住む世界へと続く坂の名と聞き間違える書店で和装の男性店長が言う。
「無事に帰りたくばワゴンの中から本を一冊買うことをお薦めする。お代は言い値で」と。
上司の失敗を押し付けられ失意の“奈美”は子供の頃何度も読んだあの本を手に取る──。

本で失敗し、本を断って生きてきた“奈美”が今また本に救われ、本で人を救っていく。
店長の厚意で住み込みのバイトを始め、好意を示されて困惑したり。取引先の若社長に
助けられ、意外な縁から誤解を与えたり。冒頭からは窺い知れない彼女の豪胆さが面白い。

前向きに生きていけるようになった“奈美”の上司、“山田”課長がまた嫌味な人物で。
彼が本を通じて因果応報な結末を迎えることに胸がすく思いを覚えるのはお許し頂きたい。
プロローグを読み返すとまたニヤリとできて、心温まる読了感が味わえるのでお薦めです。

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2019年09月26日

『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った? Lv.20』

聴猫芝居 先生が贈る、残念で楽しい日常≒ネトゲライフ。第20巻は“杏”の受験シーズン
真っ只中の間に“亜子”が猛烈なプロポーズ攻勢を仕掛け“英騎”がタジタジとなります。
(イラスト:Hisasi 先生)

https://dengekibunko.jp/product/netogeyome/321906000045.html


「リアルでもルシアンにプロポーズしたい!」と強く主張する“亜子”。リアルとゲームに
違いなんて無い、と言っていたはずの彼女を前に“英騎”や周囲も困惑の色が隠せない展開。
グイグイくる彼女を前に断り続ける彼の、鉄壁の意志が少しずつ削られていく様子が面白い。

“亜子”の攻勢にゲーム部の面々が次々と陥落し「仲魔」として“英騎”を裏切っていく中
“茜”だけが2人の無意識とも言える心境を見抜き、考えさせる助言を残していくのが流石。
というか“杏”は受験中にも関わらずゲームもしていて結果も残しているのがある意味凄い。

“亜子”と腹を割って話し合った“英騎”が彼女からのプロポーズを断り続ける真の理由に
気付いて打ち明ける場面は彼らしくてこそばゆくて思わずニヨニヨしてしまいます。そんな
幸せな2人の雰囲気に水を差すかのような引き具合にゲーム部はどう向き合うのか注目です。

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2019年09月25日

『29とJK7 〜さらば、憧憬〜』

裕時悠示 先生が贈る禁断の年の差ラブコメ。第7巻は小説コンテストで受賞した“花恋”
を見て喜ぶのも束の間、“鋭二”は彼女の小説家デビューを前にとある決意を迫られます。
(イラスト:Yan-Yam 先生)

http://www.sbcr.jp/products/4815603236.html


“花恋”を待ち受ける改稿の試練。カリスマ編集者“御旗”からはグラビアに出ないかと
提案されたり、悩ましい局面を迎えます。“綾”もニュース映像でインタビューの様子が
流れて期待の超新星と賞賛されるも予算の話が悩ましく、仕事に追われる日々が続きます。

改稿中の原稿に目を通した“真織”が感じた違和感を皮切りに、“沙樹”から告げられた
“花恋”のサブ担当“棟方”にまつわる悲愴な過去、さらに会社の要職に就く立場として
見逃せない話が明らかに。“鋭二”が募らせる“御旗”への不信感が爆発する瞬間が熱い。

「面白ければ、すべてOK!」と豪語する“御旗”の心意気、その表と裏を見せつけられた
展開には昨今の出版事情、社会人としての立場、ラノベに対する愛着など、感情が複雑に
入り混じって考えさせられました。“花恋”を守るために戦う“鋭二”の健闘を祈ります。

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2019年09月24日

『Unnamed Memory III 永遠を誓いし果て』

古宮九時 先生が贈る、魔女と王の一大叙事詩。第3巻は“オスカー”との契約期限を迎え
“ティナーシャ”は自身も驚くほどの心情の変化と、運命の変遷をその身に受け止めます。
(イラスト:chibi 先生)

https://dengekibunko.jp/product/unnamed/321810000951.html


100ページの挿絵! ということですっかり“オスカー”に毒された“ティナーシャ”の姿、
そして表紙の美麗な2人を見て安堵していたら、最後で書き換わる運命に驚嘆するばかり。
これはAct2に繋げなかったらKADOKAWAに抗議文を出すレベルでした。その意味では有難い。

ガンドナの建国記念式典で耳にしたヤルダの王女が行方不明との知らせから感じる不穏な
動向、そして呼ばれぬ魔女“レオノーラ”の暗躍と悪意に気が付いた“ティナーシャ”の
見せる明確な殺意。魔女対魔女の戦い、そしてパートナー同士の戦いは只々圧巻のひと言。

魔所の時代が終わりを告げる時、“オスカー”が脳裏に描いたあの形象。もたらした結果。
名も無き追憶の果てに涙を流した“ティナーシャ”が運命を書き換えてくれると、そして
長月達平 先生が巻末に寄せたあの言葉を痛感できる完結の時が迎えられると信じてます。

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2019年09月23日

『図書館ドラゴンは火を吹かない 第二幕 物語の日、神話の午後』

クラウドファンディングにて実現した、東雲佑 先生が贈るファンタジー作品の待望の続刊。
第2巻は“ユカ”と“リエッキ”が呪使いたち、“左利き”と決戦に臨む顛末を描きます。
(イラスト:輝竜司 先生)

https://www.makuake.com/project/toshodora2/


“左利き”との対峙も気になる所でまず綴られる「色の魔法使いの挿話」。取り憑く兄と
共に“色の魔法使い”が無償の愛を貫く明の部分、人間の宿業として悪意を示す暗の部分。
魔法使いは邪悪かを問い、愛の力と縁の奇跡を語る逸話は今巻を語る上で欠かせません。

呪使いたちの敵意を集め、魔法使いへの偏見を払拭する決定的な瞬間に備える“ユカ”。
“骨の魔法使い”たちとも合流し意志を貫いていく様子は痛快そのもの。ですが戦いに
かかずらっている彼を静観し、献身に努める彼女の炎が如き想いを忘れてはなりません。

輝竜司 先生が描く“リエッキ”の姿を見る頃には そらる さんが歌う「Liekki」の詩が
蘇ってくる熱い決闘ぶりで。“左利き”の命運に驚きながら“相棒”がイイ立ち位置で。
ファンの応援に見事に応える秀作、その成果の一助となれたことを光栄に思う次第です。

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2019年09月20日

『魔弾の射手 ─天久鷹央の事件カルテ─』

知念実希人 先生が贈る新感覚メディカル・ミステリー。長編シリーズ5冊目は呪いの病院
と噂される場所で起こった転落事故を巡る死の謎を解くために“鷹央”が診断に臨みます。
(イラスト/いとうのいぢ 先生)

https://www.shinchobunko-nex.jp/books/180162.html


屋上に時計台がある時計山病院で飛び降り自殺を図ったとされる“恵子”が運び込まれた
天医会総合病院。自殺を強く否定する娘“由梨”の陳情と、かの病院に纏わる呪いの話を
耳にした“鷹央”が調査に乗り出す所でまさかのインフルエンザ罹患。この足踏みは痛い。

時計山病院が経営破綻したきっかけとなる医療ミス。そして自殺した当時の院長。その娘
である“恵子”の兄弟に探りを入れてみるも糸口は掴めず。読み手に対して明確な殺意が、
そして凶器たる魔弾については言及されているだけに伝えられないもどかしさが募ります。

ショックで体調を崩す“由梨”にも迫る殺意。何らかの形で狙撃されたことには気付いた
“鷹央”は彼女を守り切れるか。そもそも「魔弾」とは何なのか。緊迫の度合いが増す中、
急転直下の展開を魅せる謎解きは驚愕の嵐。ニヤリとさせられるエピローグもご注目です。

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2019年09月19日

『魔王学園の反逆者 〜人類初の魔王候補、眷属少女と王座を目指して成り上がる〜』

『魔装学園H×H』の 久慈マサムネ 先生が贈る新作はちょっとHな学園魔術ファンタジー。
悪魔の通う学校で、美少女たちに支えられながら次期魔王を目指す少年の活躍を描きます。
(イラスト:kakao 先生)

https://sneakerbunko.jp/product/maogaku/321906000140.html


ある朝、気づけば枕元に「魔王のアルカナ」のタロットカード。次期魔王候補に選ばれた
ことを示すと両親は“雄斗”に告げる。更に悪魔と契約しているだの、悪魔が通う学園に
転校だの、悪魔に魔法をくらうだの、それを美女に救われるだの彼の日常は一変して──。

“雄斗”の眷属になりたい、という“リゼル”にギャルっぽい“雅”、天使のような中学
二年生“れいな”。なぜそこまでして望むのか。その答えが“アスピーテ”との対決とか
魔王候補としての資質を描く中で示されるのは得心ですが、実にうらやまけしからん話で。

「魔王のアルカナ」のおかげで人間でありながら魔王候補として強くなっていく“雄斗”。
その早さ、勢いに目をつけた同じ候補の“ステラ”の立ち位置が読みきれずに気になる所。
「スニーカー文庫」の人気作家として早々にコミカライズを決めてくるあたりも注目です。

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2019年09月18日

『勇者の君ともう一度ここから。』

みかみてれん 先生が「LINE文庫エッジ」から贈る新作はファンタジー作品。世界を救った
勇者の少女と仲間でありながら戦列を離れた隻腕の青年の、喪失と回帰の物語を描きます。
(イラスト:えいひ 先生)

https://amzn.to/2LCBq62


人と魔族の戦いに単身、命を賭して終止符を打った勇者“セラ”。剣神と呼ばれ、彼女に
同行した“ジャン”は道半ばにして片腕を失い、今では故郷で後悔に苛まれる日々を送る。
彼女を悼む彼の前に「彼女を救うために君の力を貸してほしい」という女性が現れて──。

狂神の呪いを受けて命の危機と世界の命運、両方の瀬戸際の立たされる“セラ”。彼女の
穏やかで痛ましい姿を見て隠していた愛を伝える“ジャン”に訪れた奇跡。それが想いを
試される試練の幕開けでしかない、という過酷な道のりに何度ハラハラさせられたことか。

“セラ”を救うため“ムルド”に精神魔法を教わったり色々と手助けを受ける“ジャン”。
彼女の強さの裏にある悲愴な決意を突き破るため何度もプロポーズをする破目になる彼は
想定外の敵も打ち破り、共に幸せを追い求められるか。2人の旅の行方が気になります。

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2019年09月17日

『常敗将軍、また敗れる 3』

北条新九郎 先生が贈るファンタジー戦記。 第3巻は目的の地へ向かうために立ち寄った
後継者問題に揺れる公国の主導者にして“シャルナ”の叔母を“ダーカス”が救います。
(イラスト/伊藤宗一 先生)

http://hobbyjapan.co.jp/hjbunko/lineup/detail/859.html


王の没後、嫡子の「アラストラ派」と庶長子の「ネビル派」に分かれ後継者争いを続ける
サラマド公国。アラストラ派の主導者“ライミリア”を助けたいと懇願する“シャルナ”
の気持ちを知ってか知らずか高額な報酬を吹っ掛ける“ダーカス”。その意図が今巻の軸。

傷が癒えるまで、と言いながら両派閥の人々と交流し、更に“ライミリア”にも手を出す
“ダーカス”の言動を見て憤りを隠さない“シャルナ”。“ユアン”の仇を討つと怒気を
あらわにする“バルハン”。浅慮な2人をなだめる“ダーカス”の気苦労が窺い知れます。

派閥間の争いがどこにあるのか。民草の意志、糸を引く黒幕の読みの甘さすら見抜いて、
常敗将軍として名を捨てて実を取りに行く“ダーカス”の手腕はお見事。“シャルナ”に
とっても成長につながる、勉強になった事件かと思います。次はどこへ向かうか注目です。

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2019年09月16日

『わたしの知らない、先輩の100コのこと1』

兎谷あおい 先生の「小説家になろう」投稿作が書籍化。通学に使う駅が同じなだけの男女、
先輩と後輩が出会い、日々質問を交わし、互いを知り合っていく過程を描くラブコメです。
(イラスト:ふーみ 先生)

https://mfbunkoj.jp/product/senpai100/321904000845.html
https://ncode.syosetu.com/n3707eg/


高校の通学に利用する電車は“慶太”しかいない。そんな寂しい彼を「せんぱい」と呼ぶ
少女が突如現れる。電車内で落とし物を拾ってくれた彼女は同じ利用者のよしみで1日1回
100個の質問を頂きます、と宣言してきた。彼は思う「この後輩、ぐいぐいくる」と──。

ふーみ 先生の描く“真春”が可愛いのに加えて、その言動もどこか憎めない愛らしさに
あふれています。名前を聞くことも質問に含まれるほど何も知らない2人がデートしたり
する展開に“慶太”が戸惑うのも無理はないかと思います。彼女の真意が読めないだけに。

「後輩ちゃん」そう呼ぶ“真春”と毎日顔を合わせることに悪い気はしないもののそれが
恋愛感情という実感はない“慶太”。生徒会長として「恋愛禁止の校則」を変えられるか、
そして100個の質問を終えたとき2人の関係はどうなっているのか、実に気になる所です。

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2019年09月13日

『失恋文庫 書き下ろし失恋小説アンソロジー』

涼暮皐さんの「失恋構文」に端を発する企画が実を結びアンソロジーとしてC96にて頒布。
人気ライトノベル作家たちが集結して「失恋」をテーマにした思い思いの物語を綴ります。
(イラスト:おしおしお さん)

https://note.mu/wataruumino/n/nd51f9d320814


「灰色青春は傷つかない」(雨宮和希 さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
中高のバスケ部でマネージャーを務める幼なじみの“京華”よりもバスケを選んだ“蒼”。
夢破れ、大学のサークルで“由美乃”と付き合うも“京華”への想いを引きずり別れた彼。
改めて想いを伝えるも時すでに遅し。それでも前向きな姿勢を示してくれたのが救いです。


「ずっと一緒な君と僕」(北山結莉 さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
幼なじみの“理香”が好きな“良太”が、彼女に釣り合う男になろうと努力し、成人式を
迎えた日に婚約するまでに至る。そして結婚生活まで見据えてお金を貯めようとする彼の
心意気は美談なのに報われず、人生すら棒に振るような結末が只々虚しくて、切なくて。


「乗り換えは君のいた大宮で」(ゆうびなぎ さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
バスケに打ち込む“朝斗”に惚れた“りん”が失恋するまでを描く小編。バスケを辞めた
彼への想いが冷めていく彼女の心の隙間を狙うかの様に現れた“夕陽”。靡く彼女に対し
サッと身を引く“朝斗”。共に大宮での経験を胸に生きていく所もまた青春なのでしょう。


「独り占め。」(しめさば さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
隣の家に住む幼なじみの“アキ”に恋心を抱く“ユキ”だが彼の想い人は彼女の姉である
“ナツ”。三者三葉の視点をもとに恋心のベクトルを描きながら、迂闊に決定的な瞬間を
迎えた3人が選ぶ結末。“ユキ”の心情が描かれていないのが空恐ろしいとも感じます。


「『シラノが想いを告げる時』」(子子子子子子子 さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
“白乃”と“縫奈”は小学校から続く女友達。いつしか“縫奈”に恋心を抱く“白乃”に
剣道一筋の“聖人”が「“縫奈”と付き合いたいので協力してほしい」とお願いされる。
戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」になぞらえる彼女の決断と結末が現実的で儚いです。


「ホンメイ*ログアウト」(ゆうびなぎ さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「わたしと浮気……してみない?」同じ予備校に通う“未卯”に持ち掛けられた“明治”
には“真央”という彼女がいる。しかし、彼女の恋心に重さを感じていた彼に“未卯”の
誘いは甘言、渡りに船。そして迎える決定的な瞬間、イブの日。浮気はだめですよ浮気は。


「昔の私へ」(屋久ユウキ さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
アラサーという時期を迎え、未だ独身で彼氏もいないある女性が過去の自分に対して手紙
という形で数々の男性遍歴を綴りつつ、その生き方に至った心境を自己分析していく小話。
卑下しながらも自分のことが好き、と言及する彼女に幸せは訪れるのかは、神のみぞ知る。


「虚無・A」(涼暮皐 さん)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
高嶺の花である“鹿倉”に告白し、あっさりと断られた“翔”の恋は終わったはずなのに
何故か続く彼の恋わずらい。まるで筆者が語るかの如き文面から描かれる彼の愚かな行為、
その果てに迎える興味深い結末。「失恋」の扱い方に一日の長あり、と感じさせられます。


総括
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
幼なじみヒロインはなぜにこうも立場が弱いのか。その謎を追求するのはひとまず置いて
同じテーマに合わせて短編を寄せあうことで、これだけ得体の知れないエネルギーを形成
できたこと、また読み手に共感や絶望を味わわせた実績は評価に値すると言えるでしょう。

担当編集の羽海野渉さん、緋悠梨さんも過去に言及されていた通り、読んだ短編を契機に
気になった作者がいらっしゃいましたら読者の皆さまにおかれましてはぜひ商業作品にも
手を伸ばしてほしい所で。それがアンソロジーの醍醐味でもあり、私の願いでもあります。

さらに願わくば、ライトノベルでは中々に定着しない「アンソロジー」の文化を、同人誌
という特殊な切り口ではありますが、「失恋文庫」が突破口となってくれたらと思います。
そうそう、「普通に生きてたら失恋なんてしない」という点は読む上でご考慮下さいませ。

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2019年09月12日

『魔術破りのリベンジ・マギア 7.再臨の魔人と魔術破りの逆襲術士』

子子子子子子子 先生が贈るハイエンド魔術バトルアクション。第7巻は大和の国で母の
過去に纏わる真実を、そして意外な敵を目にした“晴栄”が命を賭した戦いに臨みます。
(イラスト/伊吹のつ 先生)

http://hobbyjapan.co.jp/hjbunko/lineup/detail/858.html


“ティチュ”に突如現れた異変。それを見逃さない“晴雄”の厳格な対応に諦めの表情を
見た“晴栄”が示す怒気はかつての復讐者の機微とは別物。仲間を得て成長を遂げた彼の
様子が“法麗”との対峙や、本性を現した兄との最初で最後の兄弟喧嘩からも窺えます。

心を寄せた人を想い“晴雄”もまた抱いていた復讐の念。それぞれの過去が交錯する死闘。
その果てが物語の終着点かと思いきや、古き神々が生まれた経緯すら利用して悲願達成を
目論む強敵の襲撃。流石の“晴栄”も命を危険に晒す敵の登場で読む手に緊張が走ります。

“九曜”が託した想い。“ティチュ”に託された言葉。“晴栄”と“晴雄”が力を合わせ
仲間を信じて悪意と立ち向かう姿は必見。そこへ的確な解説を挟む“三郎”の言動にまた
魅せられます。入り乱れる魔術を見事に収め、無事完結を迎えた本作に心からの祝意を。

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2019年09月11日

『理想の娘なら世界最強でも可愛がってくれますか?3』

三河ごーすと 先生が贈る終末学園ファンタジー。第3巻は“グラン・マリア”に唆された
“雪奈”が父“冬真”の敵に回る事態を迎え人類滅亡を前に壮大な父娘喧嘩が勃発します。
(イラスト:茨乃 先生)

https://mfbunkoj.jp/product/risounomusume/321904000169.html


分からず屋な“雪奈”が振るった力、そして真意をさらけ出した“グラン・マリア”の力。
いずれも世界を震撼させるどころか破滅も危惧すべきところを食い止める“冬真”の能力。
彼の口から告げられた真実を前に“グラン・マリア”が思い描く空想が切なさを誘います。

力及ばず招いた自身の窮地に寂寥感すら覚える“カチュア”。“ソーニャ”が彼女に対し
提供する「癒しのマッサージとスキンケア」が背徳的で変態的で、いやらしいのなんの。
そんなご褒美・・・ではなく仕打ちを受けても矜持を捨てない“カチュア”の勇姿も見所で。

もう一つ賞賛すべきは、世界の常識を根底から覆す“アレイナ”のアイデアと能力をあの
悪意から守り切った“黒子”の意地。その心意気がもたらす吉兆の行方は予断を許さず。
さらに“雪奈”の未来にも暗雲が立ち込めてきて不安要素が拭えない続きが気になります。

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2019年09月10日

『本屋の店員がダンジョンになんて入るもんじゃない!』

しめさば 先生の「カクヨム」投稿作で「BOOK☆WALKER BWインディーズコンテスト・大賞」
受賞作が書籍化。ある本屋の店員がダンジョン探索に駆り出される受難の日々を描きます。
(イラスト:切符 先生)

http://dash.shueisha.co.jp/bookDetail/index/978-4-08-631323-0
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882654068


田舎町からも更に外れた本屋の店員を務める“アシタ”は三度の飯より本を読むのが好き。
とは言え、本が売れないと生計が成り立たない。そこで彼は「ダンジョンの情報を売る」
ことを考えたが、冒険者の“エルシィ”とダンジョンに同行しては散々な目に遭って──。

気さくな“エルシィ”に振り回される流れで何度も窮地に陥る“アシタ”には同情の念が
絶えません。彼女も彼女なりに彼に対する敬意を払っているからこそ、なのですが男女の
仲にまで発展するのかは未知数。仲間になる“アルマ”もなかなか好感度は高そうですし。

連作短編の形式でサクサクと話が動いてくのが読みやすさに磨きを掛けていて楽しめます。
“ラッセル”もですけど能力的に凄い人物に守ってもらっているにも関わらず、その上を
超えるピンチを前にして“アシタ”も頑張っている所にご注目。続きが楽しみな作品です。

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2019年09月09日

『AGI -アギ- バーチャル少女は恋したい』

午鳥志季 先生の「第25回電撃小説大賞」最終選考作。電脳アシスタント少女を意志を持つ
AIに進化させる研究を手伝う大学生が辿る運命を描くハートウォーミング・ラブコメです。
(イラスト:神岡ちろる 先生)

https://dengekibunko.jp/product/321902000157.html


普通に生きて穏やかに死ぬことを望む大学生“西機”が開発を手伝う人工知能の“アギ”。
彼をマスターと認識し、彼のために役立ちたいと判断した彼女は意志を持つAIに進化する。
生活に困窮する彼を救うべく、偶然に見かけたVtuberを目指そうと彼女は決意するが──。

大人気の“ナギ・ヒカル”を目指して趣向を凝らしたりするやり方にも“アギ”の特徴が
活かされてます。波に乗ってきたところでコラボを提案してくる“シンラ”からの悪質な
嫌がらせにあったりとトレンドワードを押さえたサクセスストーリーっぽい展開が面白い。

“川嶋”の気持ちも知らないで・・・なんてラブコメ展開が続くかと思えば、いつの間にか
世界と“アギ”を天秤にかける事態に“西機”が直面します。究極の選択の果てに、彼が
どんな結末を迎えるか。“アギ”の想いも含めてぜひ見届けてほしい、お薦めの作品です。

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2019年09月06日

『レイジングループ REI-JIN-G-LU-P 5 聖別の獣』

アドベンチャーゲーム「レイジングループ」のシナリオライター、mphibian 先生が自ら
小説版の執筆に臨む本作。イシイジロウ 先生の解説を受け更に話が動く第5巻が登場です。
(Illustration/影由 先生)

https://www.seikaisha.co.jp/information/2019/08/05-post-rl5.html


「おおかみ」ルート到達。「神」によって既知の情報が増えて、人を殺す狂気と人として
生きる正気の間で「死に戻りのゴール」を模索する“陽明”。安易な不殺の意志も許さぬ
「神」の意志を前に選択肢を選ぶ彼が見せる機微の描写は緊張の糸が張り詰めるかのよう。

ルート変更により敵味方の立ち位置、そして“陽明”にとってもヒロインも変わり、更に
直接「神」が彼にアプローチを仕掛けてくることで腹の探り合いも高度なものを求められ
ページが進む度に惹き込まれます。中でも“千枝実”が示すあの言動の意味が気になる所。

「よそ者」ルートや「へび」ルートと違って、「くくる」ということの意味を身をもって
味わった“陽明”が「おおかみ」としてどう役割に徹するか。見定めた彼の振る舞いを
「神」はどう捉えるか。人知を超えて繰り広げられる駆け引きの行方に目が離せません。

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2019年09月05日

『由比ガ浜機械修理相談所』

斉藤すず 先生の「第25回電撃小説大賞・読者賞」受賞作。ヒューマノイド「TOWA」の存在
に夢と希望を抱いた青年の過ちと後悔と、そして立ち直るための恋を描いていく物語です。
(イラスト:ryuga. 先生)

https://dengekibunko.jp/product/yuigahama/321904000008.html


憧れの「TOWA」を製作する会社に就職するも1年で倒産し、仕事も手につかない“氷雨”。
実家をやんわり追い出され叔母の家に転がり込んだ彼が機械の知識を活かす店を開業した
ある日、来客してきた“戸川”から「TOWA」の“結”を引き取ってほしいと依頼され──。

かつて調律を担当した“アン”との距離感を大切な「TOWA」だからこそ見誤った“氷雨”。
その過去が招いた悲劇があったからこそ、今また引取り先が決まるまでの間、共同生活を
する“結”の存在感が増していく中で見せる葛藤がもどかしく、そして切なく映ります。

“佐藤”社長が「TOWA」に抱いてきた想い、“戸川”が“結”を手放そうと依頼した真意、
そして“萌”が語ってくれた“結”の決意。三度選択肢を誤った“氷雨”が各々の思惑を
受け止めて掴み取った未来が実に眩しくて羨ましくて、幸あれと願わずにはいられません。

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2019年09月04日

『EDGEシリーズ 神々のいない星で 僕と先輩の惑星クラフト〈上〉』

川上稔 先生が贈る新作は「AHEAD」と「GENESIS」を繋ぐ、神代の時代を描く新シリーズ。
1990年代の立川で学園生活を送る少年が、とある惑星の天地創造を担う顛末を描きます。
(イラスト:さとやす 先生(TENKY))

https://dengekibunko.jp/product/321902000159.html


夏休みをゲーム三昧で満喫する“住良木”。隣室に理想の巨乳な先輩が越してきて幸せな
彼がゲーム部の面々に導かれて挑むのはテラフォーミング。巨乳先輩と一緒でヤル気全開
の彼に突如“バランサー”と名乗るAIの啓示板が現れ、様々なネタバレを告げてきて──。

アイコンをつけて誰が発言しているかを明確にする見せ方。二段組に合わせた一言一言の
言葉の短さ。いわゆる「ノベルゲーム」を読むかのような可読性の高め方が特徴的な本作。
これまでのシリーズを踏まえて、物語を読ませるための進化を続けているのが窺えます。

何度も死んでは蘇る“住良木”の、この世界における存在感がゲーム部の面々に語られて
いくうちに神々の思惑、そして神話絡みの設定の妙が見えてきて興味津々といったところ。
約束された喧嘩を真っ向から受けるゲーム部たち、そして星づくりの行方を見守ります。

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2019年09月03日

『誰も死なないミステリーを君に 2』

井上悠宇 先生が贈る青春ミステリー小説。第2巻は“志緒”の友人“飛鳥”に現れた死線、
その要因である遺産相続の話に関わる獅加観家に乗り込み、死を回避する策を巡らせます。
(イラスト:hiko 先生)

https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014278/shurui_3/page1/order/


ふとした仕草から“志緒”の死線に気付いた“飛鳥”。獅加観家で彼女を異様な出迎えを
した兄“和鷹”、狐面を被る医師“良比狐”、胡散臭い探偵“司狼”。13年前に失踪した
“綜馬”を除いた4人が父の遺産をどう継ぐか、という中でその影がちらつく不穏な展開。

いかにもミステリーな話が進んでいく前に“飛鳥”が経験した「神隠し」に関する独白が
思いがけず彼女自身の死線に関わるどころか、相続人たちに次々と現れていく奇妙な現象。
鍵を握る“飛鳥”の姉の過去を探る“佐藤”が直面した意外な真実にはただ驚くしかなく。

“飛鳥”の父が仕込んだ遺産相続に懸ける想い、“宗一郎”から託された将来必要とする
者への封筒の中身、そして「デイドリームビーバー」としての“志緒”と“佐藤”の矜持。
断罪の果てに導かれた誰も死なない幸せな結末に、今巻も清々しい読了感を味わえました。

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